近年、線状降水帯や局地的な集中豪雨によって、各地で床上浸水や土砂災害が発生しています。
「川の近くではないから大丈夫」
「高台に住んでいるから、水害は関係ない」
「これまで一度も浸水したことがない」
そう思っていた地域でも、短時間に大量の雨が降り、排水が追いつかず、道路や住宅が浸水するケースがあります。
気象庁によると、線状降水帯とは、発達した雨雲が列をつくり、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過・停滞することで、非常に激しい雨を降らせる現象です。毎年のように甚大な災害が発生しており、秋の台風シーズンを前に、住まいや車の補償を確認しておく必要があります。
ところが、保険証券を見ても、
「火災保険に入っていれば、大雨による浸水も補償されるの?」
「水災補償は付けたほうがいい?」
「車が水没したら、どの保険から支払われる?」
「地震による津波も、火災保険の水災で補償される?」
このような疑問を持つ方が少なくありません。
今回は、大雨や台風による水害から家と車、そして大切な資産を守るために、火災保険・水災補償・地震保険・車両保険の違いを、初心者の方にも分かりやすく解説します。
火災保険に入っていても、水害が補償されるとは限りません
火災保険は、火事だけに備える保険ではありません。
契約内容に応じて、落雷、台風による風災、雪災、水濡れ、盗難、水災なども補償の対象になります。ただし、火災保険に加入していれば、すべての自然災害が自動的に補償されるわけではありません。特に確認したいのが「水災」の補償です。
一般的に水災補償では、次のような被害が補償対象となる可能性があります。
・大雨で川が氾濫し、住宅が床上浸水した
・集中豪雨で排水が追いつかず、家の中に水が入った
・台風や豪雨による土砂崩れで、建物や家財が被害を受けた
・高潮によって住宅が浸水した
ただし、保険会社や商品によって、水災が基本補償に含まれている場合と、補償から外せる場合があります。また、免責金額や支払基準、支払限度額も契約によって異なります。そのため、「水災補償あり」と書かれていることだけで安心せず、どの程度の被害から、いくらまで支払われるのかを確認することが大切です。
「床上45cm以上」は間違い?水災補償の一般的な支払基準
水災補償について、特に誤解されやすいのが「45cm」という数字です。一般的な支払基準は、「床上45cm以上の浸水」ではありません。正しくは、「床上浸水」または「地盤面から45cmを超える浸水」です。
つまり、「床上まで水が来て、そこからさらに45cm以上浸水しなければ保険金が出ない」という意味ではありません。
火災保険の水災で一般的に補償対象となるケース
| 被害の状態 | 一般的な考え方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 床上浸水した | 補償対象となる可能性があります | 「床から45cm以上」という意味ではありません |
| 地盤面から45cmを超えて浸水した | 補償対象となる可能性があります | 建物の外側にある地盤面が基準です |
| 建物・家財に再調達価額の30%以上の損害が出た | 補償対象となる可能性があります | 浸水の深さが基準未満でも対象になる場合があります |
| 床下浸水にとどまった | 対象外となる場合があります | 損害割合30%以上など、別の支払条件を満たせば対象になる可能性があります |
| 豪雨による土砂崩れで建物が壊れた | 水災として補償される可能性があります | 水が家の中に入っていなくても、水災に該当する場合があります |
| 川の氾濫・内水氾濫・高潮で浸水した | 水災として補償される可能性があります | 契約に水災補償が含まれていることが前提です |
| 水道管の破損や上階からの漏水 | 通常は「水濡れ」で判断されます | 水災補償とは別の補償項目です |
| 地震による津波で浸水した | 通常の火災保険では対象外です | 建物・家財は地震保険で判断されます |
これらは多くの火災保険で見られる一般的な基準です。最近では、浸水条件を満たさない場合でも、給湯器や蓄電設備などを補償する特約や、水災の支払限度額を一定割合に抑えることで、保険料を安くする契約もあります。※実際の支払条件は、保険会社・商品・契約時期によって異なるため、必ずご自身の保険証券や約款をご確認ください。
建物の保険だけでは、家具や家電が補償されないことも
床上浸水が起きた場合、被害を受けるのは建物だけではありません。冷蔵庫、洗濯機、テレビ、エアコン、ソファ、ベッド、衣類など、多くの家財が一度に使えなくなる可能性があります。ここで注意したいのが、火災保険の「保険の対象」です。建物だけを対象に契約している場合、床や壁などの建物部分は補償されても、家具や家電は補償されません。
家具や家電まで補償を受けるためには、原則として「家財」も保険の対象にしておく必要があります。保険は、建物と家財に、それぞれ別の傘をかけるようなものです。建物にしか傘をかけていなければ、家の中の家具や家電は雨にぬれたままになってしまいます。持ち家の方は「建物と家財」、賃貸住宅の方は「家財」の補償内容を確認してみてください。
「水災補償を外してもいいですか?」という相談が増えています
私が火災保険のご相談を受けていると、よく聞かれることがあります。
「水災補償を付けたら、保険料がものすごく高くなりました。わが家は川の近くではないので、外してもいいでしょうか?」確かに、住宅の所在地や建物の条件によっては、水災補償を付けることで保険料が大きく上がることがあります。そのため、私は最初から「必ず付けてください」とも、「高いから外しましょう」とも申し上げません。まず、国土交通省のハザードマップポータルサイトや、お住まいの自治体のハザードマップを使って、次の点を確認していただきます。
・洪水による浸水想定区域に入っていないか
・内水氾濫の危険がないか
・近くに川、水路、地下道、低くなった道路がないか
・高潮や津波の浸水想定区域ではないか
・後ろに山や崖があり、土砂災害の危険がないか
・過去に周辺で冠水や浸水が起きていないか
・自宅の土地が周辺の道路より低くなっていないか
高台にある住宅でも、後ろに山や崖があれば、豪雨による土砂災害の可能性があります。また、川から離れた都市部でも、短時間に大量の雨が降ると、下水道や排水設備の処理能力を超えて水があふれる「内水氾濫」が起きることがあります。
「田舎ではないから」
「低地ではないから」
「川のそばではないから」
それだけで水災補償を外してよいとは判断できません。
ハザードマップは、住まいの「災害の健康診断書」のようなものです。保険料だけを見るのではなく、まず自宅にどのようなリスクがあるのかを調べることが出発点です。
なお、ハザードマップで色が付いていない場所でも、災害が絶対に起きないという意味ではありません。想定を超える雨や、局地的な地形・排水事情によって被害が発生する可能性も考えておきましょう。
水災補償を付けるか、外すか――判断する3つのポイント
水災補償を付けるメリットは、万一のときの住宅修理費や家財の買い替え費用に備えられることです。一方、デメリットは保険料が高くなることです。そのため、次の3つを並べて考える必要があります。
1.被害が起きる可能性
ハザードマップ、地形、過去の浸水履歴、自治体の防災情報を確認します。
2.被害が起きた場合の金額
床、壁、断熱材、設備、家具、家電、自動車などが被害を受けた場合、修理や買い替えにいくら必要になるかを考えます。
3.自己資金でどこまで負担できるか
被害額を預貯金から支払っても、その後の生活や住宅ローン、老後資金に影響しないかを確認します。
保険は、起きやすい小さな損失をすべて補うものというより、「起きたら家計を立て直せないほど大きな損失」に備えるものです。
保険料の安さだけで水災補償を外してしまうと、災害後に大きな修理費が発生し、住宅ローンや老後資金にまで影響する可能性があります。
反対に、水災リスクが極めて低く、十分な預貯金があり、万一の修理費も自己資金で負担できる場合は、水災補償の範囲や支払限度額を見直す選択肢もあります。
大切なのは、「保険料が高いか、安いか」だけではなく、「その損失を自分の家計で引き受けられるか」ということです。

車が大雨で水没した場合、どの保険から支払われる?
車が台風、大雨、洪水、高潮などで水没した場合、住宅の火災保険からは原則として補償されません。
確認するのは、自動車保険の「車両保険」です。一般的には、車両保険を契約していれば、台風、洪水、高潮などによる車の水没は補償対象になります。補償範囲を限定したタイプの車両保険でも、水害が対象となる商品があります。ただし、契約内容や免責金額によって、実際に受け取れる金額は異なります。また、車両保険を使用すると、一般的には翌年以降の等級や保険料に影響します。
建物・家財・車は、それぞれ別の保険で確認
| 被害を受けたもの | 確認する保険・補償 |
|---|---|
| 床・壁・柱・建具・備え付け設備 | 火災保険の「建物+水災補償」 |
| 冷蔵庫・テレビ・家具・衣類 | 火災保険の「家財+水災補償」 |
| 台風・大雨・洪水で水没した車 | 自動車保険の「車両保険」 |
| 地震・噴火・津波で被害を受けた建物・家財 | 地震保険 |
| 地震・噴火・津波で水没した車 | 通常の車両保険では原則対象外。専用特約の有無を確認 |
注意したいのは「津波」です。地震・噴火、またはそれらによる津波で車が水没した場合、通常の車両保険では原則として補償されません。保険会社によっては、「地震・噴火・津波によって車が全損となった場合の一時金・定額払特約」などを用意しています。
ただし、車の損害額がそのまま全額支払われる特約とは限りません。また、特約を付けられる車や契約に条件が設けられていることもあります。大雨による洪水と地震による津波では、同じ「車の水没」でも確認する補償が違うのです。
火災保険と地震保険の違いも確認しましょ
地震保険は、地震・噴火またはそれらによる津波を原因とする、居住用建物や家財の火災、損壊、埋没、流失を補償する保険です。通常の火災保険では、地震による倒壊だけでなく、地震が原因で発生した火災や津波による浸水・流失も、原則として補償されません。地震による被害に備えるためには、火災保険とセットで地震保険に加入する必要があります。(地震保険はエリアや建物構造により保険料は統一されています。)
地震保険は、建物を元通りに建て直す費用を全額補償することを目的とした保険ではありません。被災後の当面の生活再建を支えるための保険です。(※地震により全損になっても地震特約は建物金額の半分がMAX・上限です。立て直し費用全額賄えるわけではありません。全額補償を希望する場合は、補償を提供している保険会社から加入する、追加保険が必要です。いずれにしても保険料は高くなります)
保険金は実際の修理費をそのまま精算するのではなく、損害の程度を「全損」「大半損」「小半損」「一部損」に区分して支払われます。この点も、火災保険との大きな違いです。
大雨や台風が来る前に確認したい7項目
大雨や台風が接近してから保険に加入しようとしても、すぐに手続きができるとは限りません。また、すでに発生している被害や、加入前に原因が生じていた損害は補償されません。災害が起きていない今のうちに、保険証券や契約内容を確認しておきましょう。
確認したい項目は、次の7つです。
・火災保険に水災補償が含まれているか
・保険の対象が「建物だけ」か「建物と家財」か
・床上浸水などの支払条件はどうなっているか
・免責金額はいくらか
・水災の支払限度額が縮小されていないか
・自動車保険に車両保険が付いているか
・地震・噴火・津波による被害への備えがあるか
被害に遭った場合は、安全を最優先にしてください。
そのうえで、片づけや修理を始める前に、建物、家財、車の被害状況を写真や動画で残し、できるだけ早く保険会社または保険代理店へ連絡しましょう。
保険は「入っているか」ではなく「使える状態か」が大切
「火災保険には入っています」「自動車保険にも入っています」それだけでは、実際の災害に備えられているとは限りません。保険は、救命胴衣によく似ています。持っているだけではなく、自分の体に合っているか、留め具が使えるか、必要なときに取り出せるかまで確認して、初めて役に立ちます。
水災補償を付けるか、外すかについても、すべての家庭に同じ答えがあるわけではありません。住んでいる場所、建物の構造、住宅ローン、預貯金、家財の金額、自動車の保有状況によって、必要な備えは変わります。
秋の台風シーズンを迎える前に、ハザードマップと保険証券を一度並べて、「わが家では、何が起きたら、どの保険から、いくら支払われるのか」を確認してみてください。災害から資産を守る第一歩は、むやみに保険を増やすことではありません。まず、自分の家にどのような危険があり、その被害を家計だけで受け止められるのかを知ることです。そのうえで必要な補償を選ぶことが、保険料を無駄にせず、大切な住まいと老後資金を守ることにつながります。
※火災保険・自動車保険の補償内容、支払条件、免責金額、支払限度額、特約名は、保険会社・商品・契約時期によって異なります。実際の補償については、保険証券、契約概要、約款をご確認ください。
【執筆・監修】
山下幸子
CFP®/独立系ファイナンシャルプランナー
個人の家計・資産形成から、退職金運用、相続、法人・経営者の資産設計まで、2,000世帯を超える相談に対応。テレビ・ラジオ・新聞などで、難しいお金の話を生活者目線で分かりやすく解説している。
【参考資料】
・国土交通省「ハザードマップポータルサイトを活用して災害に備えよう」
・気象庁「線状降水帯に関する情報」
・財務省「地震保険制度の概要」
・日本損害保険協会「地震保険は、どのような保険ですか」
・三井住友海上「水害・水没は車両保険で補償される?」
・東京海上日動「火災保険の補償内容」



