「毎月分配型の投資信託は、買ってはいけない」そんな話を聞いたことはありませんか?確かに、運用で十分な利益が出ていないのに高い分配金を払い続ければ、資産そのものを取り崩してしまう可能性があります。いわゆる「タコ足分配」です。では、毎月分配型はすべて悪いのでしょうか?私は、そう単純ではないと考えています。特に60代、70代以降になると、お金の目的そのものが変わってくるからです。
現役時代は「資産を増やす時期」。一方、老後は、「今まで作った資産を使いながら、できるだけ長持ちさせる時期」に入ります。
山登りに例えるなら、現役時代の資産形成は「登山」。
老後は、せっかく登った山から安全に降りる「下山」です。
登り方と下り方が違うように、資産形成期と資産活用期では、お金の管理方法も違って当然です。そこで今回は、長期の運用実績がある世界株式型の毎月分配型投資信託を取り上げ、「1,000万円を約10年間保有したら、いくら分配金を受け取り、最後にいくら残ったのか?」を実際の過去データから検証してみました。
- 「毎月いくらもらえるか」だけを見てはいけない
- 実証:1,000万円を約10年間運用したらどうなった?
- 「毎月分配型=資産が減る」とは限らなかった
- このファンドは、ずっと高い分配金を出していたわけではない
- 「減配=悪いファンド」とも限らない
- 「元本払戻金(特別分配金)」の意味も正しく理解したい
- シニア投資で私が見る「5つの力」
- 毎月分配されるからといって「安全」ではない
- 【重要】このグラフの「上昇」だけを見ないでください
- 大切なのは「暴落に耐える精神力」ではありません
- シニアの「余剰資金」は、現役世代とは少し違う
- 「いくら儲かるか」より先に、「いくら下がっても困らないか」
- 信託報酬などのコストも必ず確認する
- 60代、70代、80代では「良い運用」が違う
- 結論――「毎月分配型=悪」ではありません
- 「いくら増えるか」より先に、「いくら下がっても生活に困らないか」。
「毎月いくらもらえるか」だけを見てはいけない
毎月分配型を見るとき、多くの方が気にするのが、「毎月いくらもらえるの?」ということです。しかし、私はここを一番には見ません。重要なのは「そのお金を受け取ったあと、資産がいくら残っているのか?」です。リンゴの木を想像してください。毎年実ったリンゴを収穫して食べるのであれば、木は残ります。ところが、リンゴが十分に実っていないのに毎年同じ量を配ろうとして、枝や幹まで切ってしまったらどうでしょう。いつか木そのものが弱ってしまいます。老後資産も同じです。「分配金が多い=良い投資信託」ではありません。受け取ったお金と、残った資産。この両方を見る必要があります。
実証:1,000万円を約10年間運用したらどうなった?
今回、詳しく検証したのが、野村アセットマネジメント「世界好配当株投信(毎月分配型)」です。比較条件は次のようにしました。
- 投資額:1,000万円
- 投資開始:2016年4月11日の分配後
- 終了時点:2026年4月10日
- 分配金は再投資せず、すべて現金で受け取る
- 税金・購入時手数料等は考慮しない
2016年4月11日の分配落ち後基準価額は7,464円でした。したがって、1,000万円投資したと仮定すると、保有口数は約1,339.76万口になります。その後の分配実績を合計すると、この期間の累計分配金は1万口当たり1,755円。1,000万円投資した場合の受取分配金は、約235万円となります。そして、2026年4月10日の基準価額は25,716円。同じ口数をそのまま保有していたとすると、残っている資産は、約3,445万円です。まとめると、
| 項目 | 試算結果 |
|---|---|
| 当初投資額 | 1,000万円 |
| 約10年間に受け取った分配金 | 約235万円 |
| 約10年後に残った資産 | 約3,445万円 |
| 受取分配金+残存資産 | 約3,680万円 |
つまり、1,000万円を投資→ 約235万円を現金で受け取り→ それでも約3,445万円の資産が残ったという結果になりました。
「毎月分配型=資産が減る」とは限らなかった
これは興味深い結果ではないでしょうか。毎月分配金を受け取りながら、今回取り上げた約10年間では、資産本体も大きく成長しています。少なくとも、「毎月分配型だから、必ず元本が減っていく」とは言えないことが分かります。ただし、ここで絶対に誤解していただきたくないことがあります。「3,680万円になった投信だから、おすすめ」という意味ではありません今回の結果は、2016年4月から2026年4月という過去の特定期間を切り取ったものです。世界株式市場や為替など、その時々の市場環境によって投資信託の成績は大きく変わります。したがって、「この投資信託を買えば、これから10年間でも1,000万円が3,680万円になる」という意味では決してありません。過去の運用実績は、将来の成果を保証するものではありません。私がお伝えしたいのは、特定の商品をおすすめすることではなく、「毎月分配型」という名前だけで良い・悪いを判断するのではなく、分配金を受け取ったあとに資産がどれだけ残っているのかまで確認しましょうということです。
このファンドは、ずっと高い分配金を出していたわけではない
今回の結果を考えるうえで、もう一つ重要なのが分配金の推移です世界好配当株投信は、2016年当時から2023年3月までは、1万口当たり10円の分配が続いていました。2023年4月以降は基本的に25円へ増額しています。つまり、この約10年間ずっと何百円もの高い分配金を出し続けていたわけではありません。ファンドの外へお金を出しすぎず、資産を運用に残したことも、今回の残存資産の大きさを考えるうえで重要なポイントです。
「減配=悪いファンド」とも限らない
毎月分配型を見るとき、「以前は100円だったのに、50円になった」という話を聞くと、「このファンドはダメになったのでは?」と思うかもしれません。しかし、必ずしもそうとは限りません。運用環境に対して無理な分配を続ければ、その後の運用に使える資産まで減少する可能性があります。そのため、運用状況や基準価額などを考慮して分配額を調整することが、結果として資産の減少を抑えることにつながる場合もあります。ただし、「減配したから健全」とも限りません。運用不振などによって減配せざるを得ないケースもあります。大切なのは、分配金が増えた・減ったという事実だけではなく、その前後の基準価額やトータルリターンまで確認することです。残念ながら、一般的に分配金が減ると購入者はそのファンドに見切りをつけてしまいがちです。
「元本払戻金(特別分配金)」の意味も正しく理解したい
ここは少し専門的ですが、とても大切です。投資信託の分配金には、「普通分配金」と、「元本払戻金(特別分配金)」があります。元本払戻金(特別分配金)は、投資家から見ると「投資した元本の一部が戻ってきたもの」に当たります。ただし、「元本払戻金が出たから、この投資信託そのものがタコ足だ」と単純に決めつけることもできません。普通分配金になるか元本払戻金になるかは、投資家それぞれの購入時の個別元本によって異なるからです。(ここ重要!)だから私は、「普通分配か、特別分配か」だけでなく、「長期間受け取ったあと、資産全体がどうなったのか」を見ることが重要だと考えています。
シニア投資で私が見る「5つの力」
私はシニア世代の資産運用では、「分配利回りが何%か」だけでなく、次の5つを見ることが重要だと考えています。
1.受取力・・・生活費などに使えるお金を、どれくらい受け取れるのか。
2.残存力・・・分配金を受け取ったあとも、資産がどれくらい残っているのか。
3.成長力・・・分配しながら、資産本体も成長できているのか。
4.分配調整力・・・運用環境に合わせて、無理のない分配が行われているのか。
5.暴落耐性・・・大きな株価下落が起きても、生活費や医療・介護費などのために、慌てて売却しなくて 済む資金設計になっているか。(特に5が重要!)
私は、分配金の高さよりも、この5つを総合的に見ることが、シニア世代の投資信託選びでは重要だと考えています。
毎月分配されるからといって「安全」ではない
毎月お金が振り込まれると、年金や預金利息のような感覚になってしまうことがあります。しかし、世界の株式などを投資対象としているのであれば、中身は株式投資です。株式市場が大きく下落すれば、基準価額も大きく下がる可能性があります。「毎月分配される=安全資産」ではありません。ここは絶対に忘れないでください。
【重要】このグラフの「上昇」だけを見ないでください
ここまでの実証結果を見ると、「1,000万円がこれだけ増えたのなら、シニアでも株式投信に多く投資した方がいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、私はここで、むしろ反対側のリスクもしっかりお伝えしておきたいと思います。長期投資は、最後の結果だけを見てはいけません。

このグラフを見ると、長期では大きく成長しています。しかし、ぜひ見ていただきたいのは、最終地点ではなく、その途中です。リーマンショックの時期には、このグラフ上で約1,000万円だった資産が、一時、約500万円程度まで下落しています。つまり株式投信では、1,000万円が、一時500万円程度になる。
そのくらいの大きな値下がりが起こる可能性も考えておかなければなりません。※上記は掲載グラフの推移から読み取った概算であり、実際の投資家ごとの損益を示すものではありません。
大切なのは「暴落に耐える精神力」ではありません
ここで私がお伝えしたいのは、「長期投資なのだから、半分になっても我慢しましょう」ということではありません。特にシニア世代では、もっと大切なことがあります。それは、
「半分近くまで下がっても、生活のために売らなくて済むお金だけを投資する」ということです。(超重要!)
例えば、
- 数年以内に必要になる生活費
- 医療や介護に備えるお金
- 住宅の修繕費
- 近いうちに予定している旅行や大きな支出
こうしたお金まで株式投信に入れてしまったら、どうなるでしょう。ちょうど必要になったときに株価が暴落していたら、本当は売りたくなくても、生活のために値下がりしたところで売却せざるを得なくなるかもしれません。そして、その後相場が回復しても、すでに売ってしまった資産は、その回復の恩恵を十分に受けられません。
シニアの「余剰資金」は、現役世代とは少し違う
「投資は余剰資金でしましょう」という言葉をよく聞きます。しかし私は、シニア世代の場合、「今、使う予定がないお金=余剰資金」とは考えない方がよいと思っています。今は使わなくても、5年後、10年後には生活費や医療・介護費として必要になるかもしれないからです。だからこそ、「今すぐ使わないお金」ではなく、「大きく値下がりしても、当面売らなくて済むお金」を投資に回す。この考え方がとても重要です。
「いくら儲かるか」より先に、「いくら下がっても困らないか」
投資を始めるとき、多くの方は、「何%くらい増えるでしょうか?」と考えます。でも、シニア世代の方には、その前にもう一つ質問していただきたいのです。
「もし1,000万円が一時500万円程度になっても、私は生活に困らないだろうか?」
もし答えが、「それでは困る」なのであれば、その1,000万円すべてを株式投信に投資する資金設計は、リスクを取り過ぎている可能性があります。「どこまで増やせるか」ではなく、「どこまで下がっても生活を守れるか」。これを先に考えてから、投資に回す金額を決める。私はこれが、60代、70代以降の資産運用では非常に大切だと考えています。
信託報酬などのコストも必ず確認する
長期間の運用では、コストも重要です。信託報酬が年1%と1.5%なら、「たった0.5%の差」と思うかもしれません。しかし、10年、15年と保有すれば、その差は積み重なります。シニア世代の長期運用では、分配金・運用成績・残存資産・リスク・コストをセットで見ることが大切です。
60代、70代、80代では「良い運用」が違う
私は、すべてのシニアに同じ投資信託が適しているとは考えていません。
60代――まだ「育てる」ことも
大切退職したばかりで、年金以外にも収入があり、すぐに資産を大きく取り崩す必要がない場合は、「受け取る」より「育てる」ことを優先する選択肢もあります。
70代――「使いながら残す」へ
旅行、趣味、家族との時間。せっかく作った資産を、自分の人生のために使っていく時期です。ここでは、受取力と残存力のバランスが重要になります。
80代以降――必要なお金を受け取りながら、その先にも備える
医療費・介護費などを考えると、必要なキャッシュフローを確保する重要性はさらに高まります。
しかし人生100年時代。80歳でも、その先に20年あります。だからこそ、「全部使う」でも「全部残す」でもない設計が必要なのです。
結論――「毎月分配型=悪」ではありません
今回の検証から、私がお伝えしたいのは、「毎月分配型だから悪い」と一括りにはできないということです。問題なのは、「毎月○円もらえる!」という数字だけで商品を選んでしまうこと。たくさん受け取れても、資産が急速に減ってしまえば老後後半が心配です。一方で、資産を増やすことだけに集中し、一度も使わず人生を終えることが、その方にとって本当に幸せなお金の使い方なのか、という問題もあります。
老後のお金は、一番増えた人が勝ちではありません。旅行をする。家族と食事をする。趣味を楽しむ。孫との思い出を作る。やりたかったことにお金を使う。それでも90歳、100歳まで安心して暮らせる資産を残しておく。私は、これがシニア世代の資産運用でとても大切な考え方だと思っています。「いくら増やすか」から、「どう使いながら残すか」へ。そして、もう一つ。
「いくら増えるか」より先に、「いくら下がっても生活に困らないか」。
これを考えてから投資する。老後資産で考えたいのは、運用利回りだけではありません。あなたのお金を何歳まで持たせるのか――「資産寿命」です。山下FP企画では、年金・預貯金・投資信託・保険などを一つずつバラバラに見るのではなく、「使う・守る・増やす・残す」という視点から、人生100年時代のお金の設計を考えています。「私の場合、毎月いくら使っても大丈夫?」「今持っている投資信託、このままでいい?」「投資信託を売るべきか、持ち続けるべきか分からない」「100歳までお金を枯らさないためには?」そんな疑問がある方は、一度、ご自身の「資産寿命」を確認してみてください。商品を先に選ぶのではなく、「これから毎年いくら使いたいのか」「何歳まで資産を持たせたいのか」を整理することから始めることが大切です。
※本記事は特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではありません。掲載した試算は、2016年4月11日から2026年4月10日までの過去の基準価額および税引前分配金をもとに、一定の条件で計算した概算です。税金・購入時手数料等は考慮していません。
投資信託には価格変動・為替変動等により元本割れとなるリスクがあり、株式市場の大幅な下落時には評価額が大きく減少する可能性があります。分配金額や過去の運用実績は、将来の投資成果を示唆・保証するものではありません。
特にシニア世代の株式投資では、生活費・医療費・介護費など近い将来必要になる資金とは分け、大幅な価格下落が起きても当面売却する必要のない余裕資金で行うことが重要です。
最終的な投資判断は、ご自身の資産状況・投資目的・投資期間・リスク許容度等を踏まえて行ってください。



