退職金2000万円を手にしたAさんは、金利5%(6か月)と
いう言葉に惹かれて、全額を銀行の米ドル建て定期預金に預けました。
円安が続く今なら、ドルで預ければ得だろうという思惑もありました。
預けた当時、為替は1ドル150円。
ところが、数か月後には1ドル140円まで円高が進行。
中途解約すれば普通預金利率(0.01%)が適用され、円に戻すと
為替差損が発生します。半年満期まで待つとしても、
その間にさらに円高が進めば損失は拡大しかねません。
Aさんは「安全で確実な運用」のつもりで定期預金を選びました。
ですが、「高金利の定期預金=安全」ではなかったのです。
この出来事は、多くの方にとって他人事ではありません。
とくに退職金のように人生の節目に受け取る大切なお金は、
一度判断を誤ると取り返しがつかない場合もあるのです。
外貨預金は“金利”だけで判断してはいけない
外貨預金とは、円を外国通貨に換えて預ける銀行預金です。
現在、日銀の超低金利政策で円建ての定期預金はほとんど利息がつきません
一方、米ドル定期預金では金利5%(6か月)など珍しくありません。
しかし、この「5%」はドルベースの金利です。しかも1年ではなく、
半年であれば2.5%です。
2,000万円に対し、1ドル150円と入れたレートと同じであれば
20,405,016円となり40万円ほど増えますが、
6か月後のレートが147.03円であれば、元本が割れます。
140円では、19,044,681円となり、およそ95万円の損になります。
円で預けてドルで運用し、再び円に戻すまでの間に為替が円高に動けば、たとえ高金利であっても最終的な元本は目減りします。
しかも、為替手数料や中途解約時の利率低下といった“見えにくいコスト”も発生します。
さらに重要なのは、外貨預金は預金保険制度の対象外である点です。
万が一銀行が破綻しても、外貨預金部分は1,000万円までの保護対象にはなりません。
つまり、外貨預金は“リスク性資産”であるという認識が必要なのです。
外貨預金に潜む3つの大きなリスク
為替リスク
為替相場が円高に動くと、外貨で得た元利金を円に戻す際に損失が出ます。これは、株式の価格変動リスクと同様です。
流動性リスク
多くの外貨定期預金は、満期前に解約するとほぼ利息がつきません。急な資金ニーズがあっても柔軟に引き出せない場合があります。
金利リスク・政治リスク
各国の政策や経済状況により、金利が急変したり、想定外の政策(たとえばトランプ政権の関税強化)によって為替が動くこともあります。
資産運用は「商品」ではなく「目的」から逆算する
退職金は、その人の“人生後半戦”の生活資金です。医療・介護・生活費・家族支援など、
使い道や必要時期は人それぞれですが、共通しているのは「失ってはいけないお金」ということです。
資産運用の基本は、「何のために、いつ、いくら必要なのか」というゴール設計です。
それが明確であれば、無理に外貨で高金利を狙う必要があるかどうかが見えてきます。
たとえば10年後に使う予定であれば、リスク分散して長期的に保有できる運用を選ぶことができますが、
数年以内に必要になる資金であれば、“元本を守ること”のほうが重要です。
お金を守る運用とは「焦らず、戦略的に動かないこと」
高金利や円安・円高のニュースに踊らされて、タイミングを狙って動く運用は、
プロでも難しい世界です。特に退職金のようなまとまったお金は、最初の判断が運命を大きく左右します。「溶かさない運用」とは、大きく増やすことではなく、「必要なときに減っていない」ことです。
そしてそれを可能にするのは、リスクの性質を理解し、ゴールから逆算した“戦略ある静かな運用”なのです。焦らず、守る姿勢を持って、冷静に。そして必要であれば、専門家に相談することも選択肢の一つです。
退職金は、人生のご褒美であり、これからを安心して過ごすための土台。
どうかその価値を、しっかり守っていきましょう。
